IPsec — IPパケットそのものを暗号化して守る

概要 — まず全体をつかむ

初級ではIPsecを「IPパケットを暗号化・認証する仕組み」と捉えました。中級では、その中身を作る2つのプロトコル・2つのモード・取り決め(SA)と鍵交換(IKE)を見ます。

詳細 — 1段階ずつ追う

これは何をする係?

IPsecは1つの部品ではなく、いくつかの部品の組み合わせです。

  • ESP(Encapsulating Security Payload)— 暗号化+完全性。中身を隠し、改ざんも検知する。VPNの主役
  • AH(Authentication Header)— 完全性のみ。改ざん検知はするが暗号化はしない。今は使う場面が限られる
  • SA(Security Association / ※1)— 「どの暗号方式で・どの鍵で・どちら向きに」通信するかの取り決め。方向ごとに1本ずつ持つ
  • IKE(※2)— そのSAと鍵を、安全に自動で取り決める手続き
この部分をもっと深く(上級

IPsecの難所は「データを暗号化する前に、その鍵を安全に共有する」ことです。鍵を平文で送れば意味がありません。ここを担うのが IKEv2(Internet Key Exchange v2)で、2つのフェーズで慎重に進めます。

  • フェーズ1 — IKE_SA_INIT公開鍵暗号 と同じ発想のDH鍵交換で、盗聴されても復元できない鍵素材とランダム値(nonce)を交換する。これで「IKE自身を守る安全な通り道」ができる
  • フェーズ2 — IKE_AUTH — 先の安全な通り道の中で、証明書や事前共有鍵を使って相互認証し、実データ用の SA(Child SA)を確立する
  • 以降は ESP で実データを暗号化して流す。使うのは 共通鍵暗号(速いから)で、その鍵をIKEが安全に配った、という分業
アニメーション『IKEv2の鍵交換(2フェーズ)』を開く
クライアント対向ゲートウェイ
  • クライアントトンネルを張りに行く側。自宅PCや拠点ルータなど
  • 対向ゲートウェイ社内網の入口。トンネルの相手方
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なぜ2段階に分けるのか。いきなり本人確認から始めると、そのやり取り自体が盗聴されます。まず暗号の通り道を作り(1)、その中で本人確認する(2)——この順序が、認証情報すら守るための必然です。

やさしく言うと(初級

普通の郵便は、封筒の宛先も中身も、途中の人に見えてしまいます。IPsecは、この郵便を「中身を暗号化し、宛先も丸ごと包める封筒」に変える仕組みです。

  • 暗号化 — 中身を鍵がないと読めない形にする(盗み見を防ぐ)
  • 認証・完全性チェック(※1)— 「本物の相手からで、途中で書き換えられていない」と確かめる

IPsecは VPN を実現する中核技術のひとつです。VPNという「安全なトンネル」の、中を流れる荷物を守る係だと考えると分かりやすいです。

登場人物メモ:

  • ※1 完全性チェック — 途中で1文字でも書き換えられていないかを確かめる仕組み(ハッシュ を使う)
  • ※2 IP — インターネットで荷物(パケット)を宛先まで運ぶ基本ルール

2つのモード

IPsecには、どこまでを包むかが違う2つのモードがあります。

アニメーション『IPsecの2モード(トランスポート/トンネル)』を開く
IPsecの2つのモード(守る範囲が違う)もとのIPパケット元IPヘッダ宛先など元データ(ペイロード)トランスポートモード元IPヘッダは素のまま/中身だけを守る(端末どうしが直接話すとき)元IPヘッダそのまま見えるESP元データ暗号化🔒 ここだけ暗号化・完全性保護(宛先は隠れない)トンネルモード元パケット丸ごとを暗号化し新IPヘッダを付ける=VPN向き(元の宛先も隠せる)新IPヘッダゲートウェイ宛ESP元IPヘッダ暗号化元データ暗号化🔒 元の宛先ごと丸ごと暗号化(新IPヘッダだけが外から見える)ESPは暗号化+完全性/AHは完全性のみ。VPNは宛先を隠せるトンネルモードを使う
  • トランスポートモード — 元のIPヘッダはそのまま残し、中身(ペイロード)だけを守る。端末どうしが直接IPsecで話すときに使う
  • トンネルモード — 元パケットを丸ごと(元IPヘッダごと)暗号化し、新しいIPヘッダを付けて運ぶ。元の宛先すら隠せるので、ゲートウェイ間の VPN にはこちらを使う

なぜVPNはトンネルモードなのか。拠点間VPNでは「トンネルの出口(ゲートウェイ)」あてに運び、そこで開封してから社内の本当の宛先へ渡します。だから外側には新しい宛先が要り、元の宛先は隠したい——この形がトンネルモードそのものだからです。

登場人物メモ:

  • ※1 SA — 通信の暗号方式・鍵・方向をまとめた「取り決め」。片方向ごとに1つ
  • ※2 IKE — 鍵とSAを安全に交換する手続き(公開鍵暗号 の考え方を使う)
やさしく言うと(初級
  • 会社の拠点間接続 — 東京と大阪のオフィスを安全に常時接続
  • 在宅勤務のVPN — 自宅から社内システムへ安全に入る
  • OSに標準搭載 — WindowsやスマホのOSにも組み込まれており、VPNの土台として広く使われている

仕事の流れ

  1. IKE で相手を認証し、鍵と SA を取り決める
  2. 送信側で ESP を使い、選んだモードでパケットを暗号化・カプセル化
  3. 公衆網を通し、途中の機器には中身を見せない
  4. 受信側が SA に従って復号し、完全性を確かめてから元パケットを取り出す
やさしく言うと(初級
  1. 通信の前に、二者が相手を確認し、共有するを決める
  2. 送るIPパケットを暗号化し、封をする
  3. 途中の機器は中身を読めないまま、宛先まで運ぶ
  4. 受け取った側が復号し、書き換えがないかを確かめてから使う

⚠️ うまくいかないとき

  • モードの取り違え — VPNなのにトランスポートを選ぶと、元の宛先が隠せず意図と合わない
  • SAの不一致 — 暗号方式や鍵の設定が両側でずれるとトンネルが張れない
  • AHとNATの衝突 — AHは元ヘッダも保護するため、途中でアドレスを書き換えるNATと相性が悪い
  • 鍵の寿命切れ — SAには有効期限があり、期限が来たら張り直し(再鍵)が必要
この部分をもっと深く(上級
  • 拠点間では宛先が「ゲートウェイ」であり、本当の宛先(社内ホスト)は隠したい。元パケットごと包むトンネルモードが必然
  • 端末どうしが直接IPsecで話す限られた場面だけがトランスポートモード
  • 落とし穴 — Perfect Forward Secrecy(毎回新しい鍵素材を使う設定)を切ると、将来の鍵漏洩で過去の通信までまとめて復号される危険がある
  • 落とし穴 — 弱い暗号方式や短い鍵寿命の放置は、いくらトンネルを張っても土台を崩す
やさしく言うと(初級
  • 設定が難しい — 暗号方式や鍵の取り決めが多く、両側を正しく合わせないとつながらない
  • NATと相性が悪いことがある — 途中でアドレスを書き換える機器と衝突しやすい(対策あり)
  • 鍵の管理が命 — 鍵が漏れると、暗号化していても中身が読まれてしまう

理解度チェック

そのまま解けます(成績は保存されません)。無料アカウントを作ると、学習の記録と進捗の山登りが始まります。

1. IPsecでデータの暗号化まで行うのはどちらのプロトコル?

2. 元のパケットを丸ごと暗号化し新しいIPヘッダを付ける、VPN向きのモードはどれ?

3. IPsecの「SA(Security Association)」の説明として正しいのは?

4. SAと鍵を安全に自動で取り決める手続きはどれ?

5. トランスポートモードの特徴として正しいのは?

6. 拠点間VPNなのに誤ってトランスポートモードを選ぶと起きるのは?

7. 改ざん検知(完全性)だけを行い、中身の暗号化はしないIPsecのプロトコルを英字2文字で答えてください。

8. SAには有効期限があり、期限が来たら鍵を作り直してトンネルを張り直します。この張り直しを何と呼ぶか答えてください。