初級では「何を・何から」を地図にしました。中級では、守る対象・脅威・リスクを、優先順位をつける枠組みとして持ちます。
概要 — まず全体をつかむ
詳細 — 1段階ずつ追う
守る対象=資産
まず「何を守るのか」を資産として並べます。
- データ — 個人情報・機密・信用(漏洩や改ざんが痛い)
- お金 — 決済・残高・不正送金の的
- 本人/権限 — アカウントそのもの(乗っ取られると全部が危ない)
- 可用性 — サービスが動き続けること自体も守る対象
まず資産の棚卸し・分類(何があるかを洗い出し、重要度でランク付け)を行うと、リスク式の「資産価値」が具体化し、どこを厚く守るかが決まります。
※「守るべき性質(CIA=機密性・完全性・可用性)」と各設計原則は、姉妹ユニット セキュリティの考え方 で扱います。
この部分をもっと深く(上級)
全体設計は「何を守るのか」の棚卸しから始まります。守る対象が見えないうちは、どこを厚くすべきかも決められません。
- 資産を洗い出す — データ・お金・アカウント(本人/権限)・止められない業務を、漏れなく並べる
- 重要度で分類する — すべてを同じ強さでは守れない。価値の高いものにランクを付ける
- 守るべき性質を評価する — 各資産に対し、機密性・完全性・可用性(CIA)のどれがどれだけ大事かを見る
- 境界を引く — その資産がどこに置かれ、誰の手を通り、どこまで晒されているか(保管・処理・伝送)を把握する
この棚卸しが、後段のリスク式の「資産価値」を具体化します。値の高い資産ほど厚く守る、という優先順位はここで初めて根拠を持ちます。
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 CIA — 機密性(見せない)・完全性(書き換えさせない)・可用性(使える状態を保つ)の3性質。守るべき「性質」の軸で、各性質の設計上の意味づけは セキュリティの考え方 で扱う
⚠️ イレギュラー(棚卸しでつまずく所):
- 見えない資産は守れない — 台帳に載らない野良サーバ・退職者アカウント・外部SaaSに預けたデータが、最も無防備になりやすい
- 重要度を付けないと均質化する — 全部を同じ強さで守ると、大事な所が薄く・些末な所が過剰になり、コストが噛み合わない
やさしく言うと(初級)
- 情報 — 見られてはいけないデータ(個人情報・秘密)
- 資産 — お金や、お金につながるもの
- 本人 — なりすまされないこと(自分の名で悪用されない)
- 使えること — サービスが止まらないこと
脅威をリスクで捉える
すべてを完璧には守れません。だからリスクで優先度を決めます。
- リスク ≒ 資産価値 × 脅威 × 脆弱性
- 対応は4択:低減(対策する)/回避(やめる)/移転(保険・委託)/受容(許容する)
- 脅威モデリング(代表手法にSTRIDE) — どこを、誰が、どう狙うかを設計時に洗い出す
掛け算のどこを下げるか(脆弱性を潰す・価値の高い資産を厚く守る)で考えます。
この部分をもっと深く(上級)
守る対象が並んだら、次はどこから先に守るかです。全部を完璧にはできないので、リスクという物差しで序列を付けます。
- 脅威を洗い出す — 誰が・どこを・どう狙うかを設計時に列挙する。代表手法が脅威モデリング(STRIDE※1 など)。6分類の中身と使い方は セキュリティの考え方 上級で深掘りする
- リスクを見積もる — リスク ≒ 資産価値 × 脅威 × 脆弱性。掛け算なので、どれか一つでも小さくできれば全体が下がる
- 対応方針を選ぶ — 見積もったリスクごとに、次の4つから選ぶ
| 方針 | 中身 | 向く場面 | |---|---|---| | 低減 | 対策を打って脆弱性を小さくする | 手が届き効果が見合うリスク | | 回避 | リスクを生む活動そのものをやめる | 価値に対し危険が大きすぎる | | 移転 | 保険・委託で負担を外へ移す | 起きたときの損失を分散したい | | 受容 | 許容して見送る | 対策コストが被害額に見合わない |
4方針は排他ではありません。低減で下げきれない残りを移転し、なお残る分を受容する、というように組み合わせて残余リスクを管理するのが実務です。
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 STRIDE — なりすまし・改ざん・否認・情報漏えい・サービス妨害・権限昇格の6分類で脅威を漏れなく列挙する枠組み。overview では「洗い出しの入口」として名前だけ押さえ、内訳は姉妹ユニットへ
⚠️ イレギュラー(優先順位付けの落とし穴):
- 脅威の見落とし — 内部犯・サプライチェーン・人の弱さは、外部の攻撃だけ見ていると抜ける
- リスクは動く — 脅威も脆弱性も時間で変わる。一度見積もって終わりにせず、定期的に測り直す
やさしく言うと(初級)
- 盗聴 — 通信や保存データを盗み見られる
- なりすまし — 他人のふりをされる
- 改ざん — データを勝手に書き換えられる
- 破壊・紛失 — データやシステムを壊される・失う
- 妨害(DoS) — サービスを止められる
- 人をだます — 技術でなく心のスキを突かれる(フィッシング)
全体戦略の見取り図
守りの指針を俯瞰します(各原則の詳細は セキュリティの考え方)。
- 多層防御 — 予防・検知・対応を層で重ね、1枚破られても次で止める
- AAA — 認証(誰か)・認可(何ができるか)・アカウンティング(利用の記録・追跡)
- 記録して追える状態 — 侵害に気づき、後から追跡できるログを残す
この部分をもっと深く(上級)
最後に、ここまでを回し続ける仕組みにします。セキュリティは一度作って終わりではなく、100%の安全はないという前提の上で、次の4段を回すサイクルです。
- 予防 — 攻撃を未然に防ぐ(多層防御・最小権限・攻撃面の縮小)
- 検知 — 破られたことに早く気づく(監視・監査ログ・異常検知)
- 対応 — 気づいた侵害を封じ込め、被害の拡大を止める
- 回復 — 正常な状態へ素早く戻す(バックアップ・冗長化・手順の演習)
完璧な予防より、「破られる前提」で検知と回復を厚くするのが現実解です。攻撃側は一つの穴を見つければよく、守る側はすべてを塞ぎ続けねばならない——この非対称ゆえ、突破ゼロは保証できません。だからこそ、気づく力と戻す力に投資します。
やさしく言うと(初級)
この「セキュリティ」大カテゴリは、守りの仕組みと原理を扱います。
- 考え方 — 何をどう守るかの基本原則(CIA)
- 暗号の仕組み — 盗み見・改ざん・なりすましを防ぐ土台
- 攻撃と防御 — 代表的な手口と、その守り方・歴史
- 個人情報とプライバシー — 自分のデータの扱い
(ログイン・権限など実務の認証・認可は、Webサービス側で扱います)
⚠️ 設計の落とし穴
- 完璧主義 — 守り切ろうとして、可用性や使い勝手を殺す
- 脅威の見落とし — 内部犯・サプライチェーン・人の弱さ
- 監査の欠如 — 記録が無いと、侵害に気づけず追えない
この部分をもっと深く(上級)
- 完璧主義 — 守り切ろうとして可用性や使い勝手を殺す。使われない対策は破られる(無効化される)ぶん、かえって危ない
- 人が最弱点 — どれだけ技術を固めても、だまされてパスワードを渡せば無力。設計は技術・手続き・教育の三点で支える
- 検知・監査の欠如 — 記録が無いと侵害に気づけず、後から追えない。予防偏重で検知を軽んじると、破られたことすら分からない
- コストとの不釣り合い — 被害額に見合わない対策は受容・移転で裁く。守りは有限の予算配分であって、聖域ではない
- 「壁があるから安全」という過信 — 境界は既知の危険を止める仕組み。未知の穴や人の油断は残る前提で、検知と回復まで含めて備える
まとめ——上級の全体像とは、資産を棚卸し(何を)/リスクで優先度を決め(どこから)/アーキテクチャを選び(どう守る)/性質の競合を裁き(何を優先)/予防・検知・対応・回復で回す(破られても戻す)という一続きの設計プロセスです。個別の技術は、この地図のどこに効く一手かとして読めるようになります。
やさしく言うと(初級)
- 油断 — 「自分は狙われない」。攻撃の多くは自動化・無差別
- 一点頼み — 1つの対策で安心する(本当は多層で守る)
- 人の弱さ — どんな技術も、だまされてパスワードを渡せば無力
関連する知識
理解度チェック
そのまま解けます(成績は保存されません)。無料アカウントを作ると、学習の記録と進捗の山登りが始まります。
問1. リスク対応の4方針で「保険や委託で負担を外へ移す」のはどれ?
問2. 情報セキュリティの基本「CIA」が指すのは?
問3. リスクを大まかに捉える式に近いのは?
問4. セキュリティで最初に描くべき「地図」に最も近いのは?
問5. AAAが指す3つの組み合わせとして正しいのはどれ?
問6. 多層防御の考え方として正しいのはどれ?
問7. ログ(記録)を残さないと起きる問題として本文が挙げるのはどれ?
問8. どこを・誰が・どう狙うかを設計時に洗い出す代表的な脅威モデリング手法を、英字6文字で何という?
問9. サービスが動き続けること自体も守る対象であり、CIAの一つでもあるこの性質を漢字3文字で何という?