中級では有線を「Ethernet規格・カテゴリ・スイッチによる転送」として追いました。上級では視点を一段下ろし、銅線の中で物理的に何が起きているか——なぜ撚るとノイズに強いのか、なぜ全二重で衝突が消えたのか、なぜ100mで頭打ちになるのか——を端から端まで掘り下げます。読み終える頃には、「速度が出ない」の原因が、物理・規格・設定のどこにあるかを切り分けられるようになります。
概要 — まず全体をつかむ
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詳細 — 1段階ずつ追う
① 物理層の正体 — 差動信号と符号化
中級の「撚り線でノイズに強い」を、上級では差動(バランス)伝送という一段下の原理まで下ろします。
- ツイストペアは2本1組。片方に信号、もう片方にその逆位相※1 の同じ信号を流す(差動信号)
- 受信側は2線の電圧の差だけを読む。信号は差として綺麗に残る
- 外来ノイズは近接した2線にほぼ同じだけ乗る(コモンモード※2)。差を取った瞬間、この共通ノイズは相殺されて消える
- 撚ってあるのは、2線が同じ環境でノイズを均等に拾うようにするため。シールドではなく、この均等さがノイズ耐性の源
信号そのものも生の電圧をそのまま流すわけではありません。高速な規格ほど、複数の電圧レベルを使う符号化※3 で、限られた帯域に多くのビットを詰め込みます。
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 逆位相 — 同じ波形を上下ひっくり返した信号。元の信号と足すと0、引くと2倍になる性質を使う
- ※2 コモンモード — 2線に共通して乗る成分。外来ノイズはここに入るので、差動で読むと消える
- ※3 符号化 — ビットの並びを電圧の変化パターンへ変換する規則。多値化やスクランブルで、同じ周波数でもより多くの情報を運ぶ
⚠️ イレギュラー(差動が崩れると弱くなる):
- ペアをほどくと弱る — コネクタ付近で撚りを長くほどくと、その区間だけ2線が別々にノイズを拾い、相殺が効かなくなる
- UTPとSTPの違い — 強いノイズ源(工場・高圧線の近く)では、あえてシールド付き(STP)を使い、差動+シールドで二重に守ることもある
やさしく言うと(中級)
有線接続の中身は Ethernet(イーサネット) という規格です。ツイストペア(銅線を撚り合わせたケーブル)を使い、機器どうしを直接つなぎます。今は全二重が標準で、送信と受信が同時にできるため、昔のような衝突(コリジョン)は起きません。
- 信号を運ぶ — 電気信号がケーブルの中を通る
- 規格で速度が決まる — 1000BASE-T(1Gbps)などの規格に沿う
- 撚り線でノイズに強い — ツイストペアが干渉を打ち消す
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登場人物メモ:
- ※1 カテゴリ — ケーブルの世代(Cat5e・Cat6など)。上の世代ほど速度や距離に強い
- ※2 全二重 — 送信と受信を同時に行える方式。衝突が起きない
② カテゴリと帯域 — 世代が上限を決める
中級の「カテゴリを合わせる」を、上級では帯域(周波数の幅)という物差しで捉え直します。速度の上限は、ケーブルがどこまで高い周波数を歪みなく通せるかで決まります。
- Cat5e — 帯域およそ100MHz。1000BASE-T(1Gbps)までが実用範囲
- Cat6 — 帯域およそ250MHz。10GBASE-Tも短距離(おおむね数十m)なら狙える
- Cat6A — 帯域およそ500MHz。100mまで10GBASE-Tを保証する世代
- 速度は口・スイッチ・ケーブルの一番低い世代に引きずられる。どれか1つが古いと、その天井で頭打ちになる
高速化で効いてくるのがクロストーク※1、とくに束ねた隣のケーブルから漏れ込むエイリアンクロストーク※2 です。10GBASE-TがCat6Aを要求する理由の一つが、この束ね干渉への耐性でした。

登場人物メモ(※の説明):
- ※1 クロストーク — 隣り合うペアどうしで信号が漏れ合う干渉。撚りのピッチをペアごとに変えて減らしている
- ※2 エイリアンクロストーク — 同じケーブル内ではなく、束ねた別のケーブルから漏れ込む干渉。高周波・高密度配線で顕在化する
⚠️ イレギュラー(カテゴリ不一致の罠):
- ケーブルだけ古い — 口とスイッチを新しくしても、途中の壁内配線がCat5eなら、そこが天井になる(見えにくい)
- 短距離なら化ける — 規格外でも距離が短ければ動いてしまうことがあり、「動くのに不安定」の原因判別を難しくする
やさしく言うと(中級)
- 銅線のLANケーブル — 電気信号を運ぶ。家の中の短距離で一般的。規格は1000BASE-Tなど
- 光ファイバ — 光で信号を運ぶ。長距離でも速く減衰しにくい(家の外の回線)
- カテゴリを合わせる — Cat5eなら1Gbps、Cat6ならより高速に対応。口とケーブル両方の世代が効く
「家の中はLANケーブル、家の外は光ファイバ」という組み合わせが典型です。銅線は100mほどが距離の上限で、それを超えると信号が弱ります。

③ 全二重・オートネゴシエーション・PoE
中級で「全二重が標準」と述べた、そのすり合わせと衝突の歴史、そして給電までを上級で整理します。
- 半二重とCSMA/CD — 昔の同軸・ハブ時代は1本の線を皆で共有し、送信前に空きを確かめ、衝突したら待って再送するCSMA/CD※1 で捌いていた。衝突は正常動作の一部だった
- 全二重で衝突が消えた — スイッチと配線の分離で、送信線と受信線が独立。同時に送受信でき、そもそも衝突が起きない構造になった。CSMA/CDは名残として規格に残るだけ
- オートネゴシエーション — リンク確立時、両端が使える速度と全二重/半二重を広告し合い、共通で最速の組み合わせに落ち着く。ここは両側がautoである前提で成り立つ
- PoE — 直流電力をデータ信号に重畳※2 してツイストペアに乗せる。データは高周波、電力は直流と周波数ですみ分くので、通信を止めずに同時給電できる
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 CSMA/CD — 共有媒体で衝突を検出して待避・再送する方式。全二重では不要になったが、規格の歴史として押さえておく
- ※2 重畳 — 別の性質の信号(ここでは直流電力)を、既存の信号に重ねて同じ線で運ぶこと。受け手は周波数で分離する
⚠️ イレギュラー(すり合わせの失敗):
- 片側だけ固定 — 一方をautoでなく手動固定にすると、もう一方が相手を半二重と誤認するデュプレックスミスマッチが起き、遅延とエラーが多発する
- 給電能力の不足 — PoEにも世代(供給できるワット数)があり、消費の大きい機器を古いPoEにつなぐと電力不足で不安定になる
やさしく言うと(中級)
- 有線 — 安定・高速・干渉に強い。ただしケーブルが要る(場所が固定されがち)
- 無線 — 手軽・どこでも。ただし電波の弱さ・干渉で不安定なことも
- L2スイッチング — スイッチは受け取ったフレームの宛先MACを見て、その機器がつながるポートだけに転送する。ハブのように全ポートへばらまかないので効率がよい
- PoE — LANケーブルでデータと電力を同時に届け、カメラやアクセスポイントを電源工事なしで置ける
用途で使い分けます。速さと安定が欲しいなら有線、手軽さなら無線。
④ 100mの壁と、光との使い分け
上級の締めに、なぜ銅は100mで頭打ちなのかと、その先を光ファイバへ委ねる理由を見ます。
- 減衰と歪み — 距離が延びるほど信号は弱り、高周波成分ほど鈍る。ある距離を超えると受信側が0と1を判別できなくなる
- タイミングの縛り(歴史) — 半二重+CSMA/CDの時代は、「送信中に衝突が自分へ届く」往復時間の上限(スロットタイム)が最大距離を数式で決めていた
- 保証範囲としての100m — 上の条件をまとめて満たす安全域として、水平配線は約100mに定められた
- 銅の限界=光の出番 — 建物間・長距離・電磁ノイズの激しい経路は、光ファイバが担う。光は電磁誘導の影響を受けず、減衰も少なく、遥かに長距離を高速で運べる
「家の中の短距離は銅、外や長距離は光」という使い分けは、この物理的な限界の裏返しです。より広い経路と外の世界へのつなぎは 外への有線 を参照。
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 スロットタイム — 半二重イーサネットで、衝突を確実に検出するために送信を続ける最小時間。ケーブル長の上限と直結していた
⚠️ イレギュラー(限界を踏み外す場面):
- 距離オーバー — 100mを大きく超えると、リンクは張れても不安定になる。中継が必要なら間にスイッチを挟むか光へ切り替える
- ノイズ環境 — モーターや高圧線の近くでは、UTPの差動でも拾いきれず、STPや光ファイバが要る
⚠️ 上級の落とし穴 — 「速度が出ない」の切り分け
有線トラブルは、物理・規格・設定のどこで詰まっているかを層で切り分けると原因に早く辿り着けます。
- 物理の問題 — 断線・接触不良・ペアのほどきすぎ・ノイズ源の近接。差動やシールドが崩れて信号品質が落ちる
- 規格(世代)の問題 — ケーブル・口・スイッチのどれか一つが古く、そこが天井になる。壁内配線のカテゴリは見えにくく見落としやすい
- 設定の問題 — オートネゴシエーションの片側固定によるデュプレックスミスマッチ。リンクは張れるのに遅い・エラーが出るのが典型
- 距離の問題 — 100mの壁を超えている、あるいはPoEの給電能力が足りない
- 「銅で何とかする」の過信 — 長距離・強ノイズ・建物間は銅の土俵ではない。無理に伸ばさず光ファイバへ委ねるのが定石
まとめ——有線の速さと安定は、差動信号(どうノイズを消すか)/カテゴリと帯域(どこまで速く運べるか)/全二重とネゴシエーション(どうすり合わせるか)/100mの壁(どこまで届くか)という何段もの物理と規約の上に乗っています。ここまで見えれば、「動くのに遅い」の原因を、当てずっぽうではなく層で切り分けられるはずです。
やさしく言うと(中級)
- 断線・接触不良 — ケーブルの傷み、挿し込みの甘さ
- カテゴリが古い — ケーブルや口の世代が遅いと、1Gbpsを狙っても速度が出ない
- 距離オーバー — 銅線で100mを大きく超え、信号が弱って不安定
- 抜けている — 単純に挿さっていない
関連する知識
理解度チェック
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問1. 銅のツイストペアで100m(正確には水平配線100m)という距離制限が設けられている、その根拠として最も適切なのは?
問2. PoE(Power over Ethernet)が、データ通信を止めずに同じLANケーブルで給電できるのはなぜか?
問3. 1000BASE-Tでリンクは張れているのに速度が異常に遅く、ときどきパケットロスも出る。片側のスイッチだけ「100M全二重固定」に手動設定されていた。最も疑うべき原因は?
問4. UTP(シールドのないツイストペア)が外来ノイズに強いのは、なぜか?
問5. 既設のCat5e配線のまま、口とスイッチだけを10ギガ対応(10GBASE-T)に替えれば10Gbpsが出る、と考えるのが危ういのはなぜか?
問6. 全二重で「そもそも衝突が起きない」構造になった根本理由として正しいのは?
問7. 同じケーブル内ではなく、束ねた「別のケーブル」から漏れ込む干渉を何と呼ぶか。10GBASE-TがCat6Aを要求する一因でもある。
問8. 半二重イーサネットで、衝突を確実に検出するために送信を続ける最小時間を何と呼ぶか。ケーブル長の上限と直結していた(カタカナ)。