中級では、ONUを「光と電気を変換する箱」から一歩進め、PONによる共有・波長多重・ルーターとの役割分担まで見ました。上級では、その各段を物理の側から掘り下げます——光と電気はどう変換されるのか、1本の光をどう複数世帯で分け合うのか、そしてその方式がぶつかる限界(分岐数と距離、上り帯域、減衰)まで。ニッチですが、光アクセス網の設計思想が一直線に読めるはずです。
上級の解説は準備中のため、上級の内容を表示しています。
概要 — まず全体をつかむ
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① 光と電気の変換の実際 — E/OとO/E
初級・中級の「光⇔電気を変換する」を、上級では変換を担う素子まで下ろします。
- 送信(電気→光、E/O変換) — 発光素子※1 に電流を流し、電流の強弱を光の強弱(点滅)に変える。デジタルの0/1は、光を消す/点けるに対応する
- 伝送 — 光ファイバのコア(芯)の中を、光が全反射を繰り返して進む。金属線と違い電気抵抗による発熱がなく、遠距離でも減衰が小さい
- 受信(光→電気、O/E変換) — 受光素子(フォトダイオード)が届いた光の強弱を電流の強弱に戻す
- こうして「宅内は電気、宅外は光」という2つの世界を、ONUが両端で橋渡しする
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 発光素子 — 電気を光に変える部品。長距離・高速にはレーザーダイオード、短距離・安価な用途にはLEDが使われる。光の色(波長)はこの素子で決まる
⚠️ イレギュラー(変換ゆえの弱点):
- 電源が要る — E/O・O/Eの変換には電力が必要。だからONUは停電で止まる(中級の「停電で使えない」の正体はこれ)
- 光は折り曲げに弱い — コア内の全反射は、ファイバを急角度で曲げると崩れて光が漏れ、損失(減衰)が増える
② PON — 1本の光を分け合う受動光網
多くの光回線は各家に専用ファイバを引くのではなく、PON(受動光網) で1本を共有します。上級では登場する3者の役割を分けて見ます。
- 局舎のOLT※1 が、地域をまとめる大元の親機として1本の光を送り出す
- 途中のスプリッタ※2 が、その1本を電源も判断もなく物理的に複数の枝へ分ける。宛先は見ない
- 各家のONUが枝の末端で光を受け、宅内の電気信号へ変換する。OLTとONUは1対多で対になる
- スプリッタが受動(電源不要)なので、局舎と各家の間に電源を置く必要がなく、故障点も少ない——これがPONの経済性の核
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 OLT — Optical Line Terminal。局側の親機。1台で多数のONUを束ね、後述の上り時間枠の割り当てや下りの制御も担う「司令塔」
- ※2 スプリッタ — 光を物理的に分岐する受動素子。分けた数だけ各枝の光は弱くなる(この代償が④の限界につながる)
⚠️ イレギュラー(共有ゆえの前提):
- 能動素子ではない — スプリッタは増幅も振り分けもしない。だから故障に強い反面、賢い制御はすべて両端(OLTとONU)が持つ
- 1本を分けるほど弱まる — 受動分岐の宿命。強くして配り直すことはできない
外への有線がサーバまでどう続くかは 外のサーバへ を参照。
③ 上り・下りをどう共存させるか
1本の光ファイバで、双方向かつ複数世帯を両立させる。PONはこれを3つの工夫で解きます。
- 上りと下りの分離(波長分割多重)※1 — 下り(局舎→宅内)と上り(宅内→局舎)に別々の波長を割り当て、同じ1本の中で色で分けて共存させる
- 下りは同報+暗号 — 下りはスプリッタで全世帯へ同じ光を配る(ブロードキャスト)。各ONUは宛先の識別子で自分宛てだけ取り出すが、他家宛ても物理的に届くので暗号化が前提
- 上りは時分割(TDMA)※2 — 上りは全ONUが同じ波長を共有するので、そのまま送るとぶつかる。OLTが各ONUに送信の時間枠を割り当て、順番に送らせて衝突を防ぐ
- 距離差で枠がずれないよう、OLTは測距(レンジング)で各ONUの送信タイミングを微調整する
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 波長分割多重 — 1本の光ファイバに複数の波長(色)を同時に流し、色ごとに別チャネルとして使う多重化。上り/下りの分離に使う
- ※2 TDMA — Time Division Multiple Access。時間を細かく区切り、各ONUに送信してよい時間帯を割り当てて共有する方式。上りの衝突回避の中心
⚠️ イレギュラー(さばき方の非対称):
- 下りと上りで方式が違う — 下りは「全員に配って選ばせる(暗号で守る)」、上りは「順番を決めて送らせる」。同じ1本でも向きで交通整理が別
- 上りは時間の奪い合い — 世帯が同時に多く送ると時間枠が足りず、上りが混みやすい(共有ゆえの混雑)
④ 方式の限界 — 分けることの代償
PONの経済性(1本を分けて安く広く)は、そのまま限界の裏返しでもあります。設計はこのトレードオフの綱引きです。
- 分岐数と距離のトレードオフ — スプリッタは受動なので、分けるほど各枝の光パワーは弱まる。発光から受光までに使える損失量=光パワーバジェット※1 は有限で、分岐数を増やすほど到達距離は縮む。「たくさん分ける」と「遠くまで届ける」は両立しにくい
- 上り帯域の共有 — 上りはTDMAで時間を分け合うため、世帯が増えるほど1軒あたりの取り分は減る。回線速度の「最大」は理論値で、混雑時間帯の体感はこの共有に左右される
- 光の減衰 — 距離・コネクタ接続・急な曲げ・経年で光は少しずつ弱まる。バジェットを食い尽くすと、認証(登録)できない・リンクが不安定になる
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 光パワーバジェット — 送信側の光の強さと、受信側が認識できる最小の強さの差(=途中で失ってよい損失の上限)。分岐・距離・接続の損失をこの範囲に収める設計が要る
⚠️ イレギュラー(限界を動かす手立て):
- 世代交代で底上げ — より高速な世代(10G級のPONなど)は、波長や変調を見直して速度と共有効率を上げるが、分けるほど弱まる物理は残る
- 専有したいなら別方式 — 分岐せず1対1で光を引く方式(各戸専用)なら共有の混雑は消えるが、ファイバも局側ポートも世帯数ぶん要り、コストが跳ね上がる。PONは「安さ」と「共有の妥協」を選んだ設計
⚠️ 上級の落とし穴
- 「光だから無限に速い」という誤解 — 上りはTDMAの共有帯域。理論最大と、混雑時の実効は別物
- 暗号を軽視する — 下りは全世帯に同報される前提。暗号化があって初めて他家に覗かれない。方式を知らないと危険を過小評価しがち
- 分岐比を欲張る — 世帯を詰め込むほど光は弱まり距離が縮む。バジェットを超えると一部の遠い世帯だけ不安定になり、原因が見えにくい
- 曲げ・コネクタの損失を見落とす — 1か所の急な曲げや汚れた接続が、積み上がってバジェットを食い潰す。物理は正直で、少しずつ効いて最後に落ちる
- ONUとルーターの役割を混同する — 光の共有・変換はONU(物理層〜変換)、IPの振り分けはルーターの仕事。一体型(ホームゲートウェイ)でも内部の役割は別。詳しくは ゲートウェイ と ルーター を参照
まとめ——ONUの上級は、変換(E/O・O/E)/共有(PONと受動スプリッタ)/交通整理(波長分割+下り同報+上りTDMA)/限界(分岐数・距離・帯域・減衰)という4層で読めます。「1本を安く分け合う」という設計思想と、その代償が同じ物理から生まれている——ここが見えると、光アクセス網の速度表記や混雑の理由が、すべて地続きに理解できます。
関連する知識
理解度チェック
そのまま解けます(成績は保存されません)。無料アカウントを作ると、学習の記録と進捗の山登りが始まります。
問1. ONUの内部で「電気信号を光信号に変える(送信側)」役割を実際に担うのはどれ?
問2. PONの上り(各家→局舎)で複数世帯の信号がぶつからないようにする主な仕組みは?
問3. PONのスプリッタ(分岐器)が「受動素子」であることの正確な意味は?
問4. PONの下り(局舎→各家)は、なぜ暗号化が前提になっているのか?
問5. PONで「1台のOLTから分岐する世帯数(分岐比)を増やすほど不利になる」のはなぜか?
問6. ONUの内部で「光信号を電気信号に戻す(受信側、O/E変換)」を実際に担うのはどれ?
問7. 上りと下りを1本の光ファイバで共存させるためにPONが使う分離方式はどれ?
問8. 光ファイバのコアの中を、光が壁で跳ね返りながら進む現象を何と呼ぶ?