初級では無線を「電波で飛ばす道」と捉えました。中級では、規格と周波数帯・共有媒体ゆえの順番待ち・つなぎ方の安全を見ます。
概要 — まず全体をつかむ
詳細 — 1段階ずつ追う
これは何をする係?
端末の無線NICとアクセスポイント(※1 親機) の間を電波でつなぐのは同じですが、その電波はみんなで分け合う共有媒体です。有線のように1台ずつ専用の線を持てないので、誰かが送っている間は他は待つという調整が要ります。
登場人物メモ:
- ※1 アクセスポイント(AP) — 電波を中継する親機。家では多くルーターと一体。複数APで家中を覆い、端末が近いAPへ乗り換えるのがローミング
- ※2 チャネル — 周波数帯をさらに区切った「レーン」。近所と同じレーンを使うと干渉する
やさしく言うと(初級)
端末の無線NICと、アクセスポイント(※1 親機。多くは家庭用ルーターに内蔵) の間を、電波でやり取りします。ケーブルが要らないので、家の中のどこでも、スマホでもつなげる手軽さが魅力です。

登場人物メモ:
- ※1 アクセスポイント — 無線の電波を中継する親機。家では多くルーターと一体
どう飛んでいる?
- 端末の無線NICが、送る前に電波が空いているか確認する(キャリアセンス)
- 空いていれば送信、埋まっていれば少し待つ = CSMA/CA(衝突を避ける順番待ち)
- APが受け取り、SSID(ネットワーク名)ごとのグループとして扱う
- 通信は WPA2/WPA3 で暗号化され、そこから先は有線と同じく外へ運ばれる
アニメーション『無線(電波で共有)』を開く
有線のCSMA/CD(ぶつかってから検知)と違い、無線はぶつかる前に避ける設計です。電波は送信と受信を同時にしづらく、衝突を「見て」検知できないためです。
この部分をもっと深く(上級)
有線のCSMA/CDは「ぶつかったのを検知して」やり直します。無線はそもそも衝突を検知できないので、避けるしかありません。
- 送信したい端末は、まず電波が空いているか聴く(キャリアセンス※1)
- 空いていても即送らず、乱数で決めた短い時間だけ待つ(バックオフ※2)。皆が同時に飛び出すのを防ぐため
- 待つ間ずっと空いていれば送信する。埋まっていたら待ち時間を延ばして再挑戦する
- 受け手(AP)は正しく受け取れたらACK※3 を返す。送信側はACKが返って初めて「届いた」と確信できる
- 一定時間ACKが来なければ衝突・消失とみなし、バックオフをやり直して再送する
なぜ「検知」でなく「回避」なのか。無線機は送信と受信を同時にこなしにくく、自分が送信している最中は、自分の強い電波で他局の弱い信号がかき消されて聞こえない。だからぶつかった瞬間を観測できず、ACKの有無で事後に推測するしかないのです。
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 キャリアセンス — 送る前に媒体(電波)が使われていないか聴くこと。「空いてから話す」の基本作法
- ※2 バックオフ — 空いていても乱数分だけ待つ仕組み。複数端末の再挑戦が重なって再衝突するのを散らす
- ※3 ACK — 受信確認の短い返信。届いた証拠。無線では正常系でも毎回ACKが返る(この往復が後述のオーバーヘッドになる)
⚠️ イレギュラー(キャリアセンスが効かない盲点):
- 隠れ端末問題 — 互いの電波は届かないが同じAPには届く2端末は、相手の送信を聴けず両方が「空き」と誤判断して同時送信し衝突する。緩和策がRTS/CTS(送信要求と送信許可)で、APが返すCTSが圏内の全端末に届き「今から誰かが使う」という予約を周知する
- さらし端末問題 — 逆に、聴こえるが実は干渉しない相手にまで遠慮して、送れるのに送らず無駄に待つこともある
やさしく言うと(初級)
- 端末の無線NICが、データを電波に乗せて飛ばす
- アクセスポイント(ルーター)が受け取る
- そこから先は、有線と同じく外へ運ばれる
アニメーション『無線(電波で共有)』を開く
電波なので目には見えませんが、光や電波はどれも電磁波の仲間です(詳しい仕組みは将来の深掘りで)。
規格と周波数帯
- 規格の世代 — 802.11n=Wi-Fi4、802.11ac=Wi-Fi5、802.11ax=Wi-Fi6。世代が新しいほど速く、混雑にも強い
- 2.4GHz帯 — 遠くまで届き壁に強いが、機器が多く干渉しやすい(混雑レーン)
- 5GHz/6GHz帯 — 帯域が広く速いが、距離や障害物で弱まりやすい
- チャネル選び — 近所と重ならないチャネルにすると干渉が減る
- SSIDとセキュリティ — 合言葉(パスフレーズ)と暗号化方式(WPA2/WPA3)で盗み見を防ぐ
- ローミング — 複数APを同じSSIDで並べ、移動しても切れずに近いAPへ乗り換える
この部分をもっと深く(上級)
無線の速度上限は、まずどれだけ広い帯域幅を占有できるかで決まります。そしてどこの周波数帯を使うかで、届き方が根本的に変わります。
- チャネルと帯域幅 — チャネルは帯域を区切ったレーン。20MHz幅を40/80/160MHzへ束ねるほど一度に運べる量が増えるが、広げるほど空いている連続帯域が見つかりにくく、干渉相手も増える
- 2.4GHz帯 — 波長が長く回折して壁を回り込み、遠くまで届く。ただし対応機器が多く電子レンジやBluetoothとも干渉して混雑レーン。重ならない独立チャネルが実質3本ほどしかない
- 5GHz帯 — 帯域が広く高速。チャネル数も多い。直進性が強く距離や障害物で弱まりやすい。気象レーダー保護のため一部チャネルはDFS※1(レーダー検知で退避)が要る
- 6GHz帯(Wi-Fi 6E/7) — さらに広大な連続帯域を新規に使える。混雑が少なく高速だが、飛距離は最も短く壁に弱い
アニメーション『周波数帯と用途』を開く
登場人物メモ(※の説明):
- ※1 DFS — 動的周波数選択。5GHzの一部で気象・軍事レーダーを検知したらそのチャネルを即座に明け渡す義務。電波は公共の資源であり、無線LANは免許不要だが譲り合いのルール付きで間借りしている
⚠️ イレギュラー(帯域幅は諸刃):
- 広帯域が裏目に出る — 混雑地では160MHzに広げるほど干渉に当たりやすく、狭めた方が実効速度が上がることがある
- 電波法の制約 — 使える周波数・最大送信出力・屋外利用の可否は国ごとに法で定められ、勝手には超えられない。速度の上限は物理だけでなく制度でも引かれている
やさしく言うと(初級)
- 手軽 — ケーブル不要、どこでも、複数機器を同時に
- 不安定になりうる — 距離・壁・他の電波との干渉で弱まる
- 暗号化が大事 — 電波は空間を飛ぶので、盗み見られないようパスワードで暗号化する
⚠️ うまくいかないとき
- 混雑で遅い — 同じチャネルに機器が多く、CSMA/CAの順番待ちが延びる
- 干渉 — 電子レンジ、近所のWi-Fi、Bluetoothなどが同じ帯域とぶつかる
- 電波が弱い・届かない — 距離、壁、階をまたぐ。5GHzは特に弱まりやすい
- セキュリティ不一致 — 暗号化方式やパスフレーズが合わず繋がらない
- AP切替の谷間 — ローミング設定が悪く、遠いAPに掴まったまま遅くなる
この部分をもっと深く(上級)
無線の限界は、突き詰めると「空間という1つの媒体を皆で分け合う」ことと「電波が物理法則に従う」ことに行き着きます。
- 公称値と実効速度の断層 — 最大9.6Gbpsのような公称値は理想条件の上限。現実にはCSMA/CAの順番待ち、ACKや管理フレームのオーバーヘッド、距離減衰による低速変調への切替、他ネットワークとの干渉が重なり、実効はしばしば公称の半分以下に落ちる
- 台数が増えるほど1台は遅くなる — 帯域は皆で共有するので、接続端末が増えるほど順番待ちが延び、1台あたりの取り分は減る。有線の専用線とは根本的に事情が違う
- 距離減衰は避けられない — 電波は距離の二乗で急速に弱まり、壁や人体で吸収される。出力は電波法で上限が定められ、力ずくでは押し切れない
- 干渉は自分で制御できない — 近隣のWi-Fiや電子レンジは他人の設備。混雑帯ではチャネル選択も譲り合いになり、単独では最適化しきれない
- セキュリティは別問題として残る — 電波は空間に漏れるため、暗号化(WPA2/WPA3)を切れば盗聴・なりすましの余地が生まれる。速度の話とは独立に必須
まとめ——無線は、衝突を見られないから避ける(CSMA・バックオフ・ACK・RTS/CTS)/波に緻密に乗せる(変調とOFDM)/帯域と空間を使い切る(チャネル・MIMO・ビームフォーミング)という何段もの工夫で速度を絞り出しています。しかしその全ては、共有媒体・距離減衰・干渉・電波法という物理と制度の限界の内側での戦いです。有線のような専用線の安定と引き換えに、手軽さと引き回しの自由を得ている——ここまで見えれば、モバイル回線も衛星通信も、同じ「電波を分け合う」問題の別の解き方として読めるようになります。
やさしく言うと(初級)
- 電波が弱い・届かない — 距離、壁、階をまたぐ
- 干渉 — 電子レンジ、近所のWi-Fi、多数の機器
- パスワード違い — 暗号化の合言葉が合わないと繋がらない
関連する知識
理解度チェック
そのまま解けます(成績は保存されません)。無料アカウントを作ると、学習の記録と進捗の山登りが始まります。
問1. 2.4GHz帯と5GHz帯を比べたときの説明として正しいのは?
問2. 有線が独立した線で送れるのに対し、Wi-Fiが「順番待ち」で遅くなりやすいのは、電波がどんな媒体だから?
問3. 無線で送信する前に「電波が空いているか確認する」動作を何と呼ぶか。
問4. 有線のCSMA/CD(ぶつかってから検知)に対し、無線のCSMA/CAの考え方として正しいのは?
問5. 複数のアクセスポイントを同じSSIDで並べ、移動しても切れずに近いAPへ乗り換える仕組みは?
問6. 規格「802.11ax」は、次のどの世代の通称か。
問7. 無線で「空いているか確かめてから送り、埋まっていれば待つ」衝突回避の方式を英字で書くと「CSMA/◯◯」。◯◯に入る英字2文字は何か。
問8. 無線LANのネットワーク名(電波のグループ名)を、英字4文字で何と呼ぶか。